東京高等裁判所 昭和36年(う)2332号 判決
被告人 中原壮
〔抄 録〕
控訴趣意第一点及び第二点について。
しかしながら刑法第百八十一条にいわゆる強姦致傷罪は同法第百七十七条に規定する強姦の行為に原因して、他人に死傷の結果を生ぜしめた場合に成立するのであつて、その結果が必ずしも強姦行為自体もしくは強姦罪の手段たる暴行脅迫の行為によつて発生することを要せず、苟くも暴行脅迫による強姦の行為に附随して他人に死傷の結果を発生せしめた以上、その犯罪行為と死傷との間には当然因果関係が存在するものといわなければならない(大審院明治四四年六月二九日判決、判決録一七輯一三三〇頁、大正四年九月一一日判決、判決録二一輯一二九二頁、尚最高裁判所第一小法廷昭和三五年二月一一日決定、裁判集刑事一三二号二〇一頁趣旨参照)。本件においてこれを観るに、原判決挙示の証拠によれば、被告人は原判示日時、場所において、原判示ジヤツクナイフを原判示被害者につきつけ、「こつちへこい」といいつつ、拒む同女を無理に附近の山林中に連れ込み、更に右ナイフをつきつけて「いうことを聞くなら殺さない」等と申し向けて同女を地上に押し倒す等の暴行脅迫を加え、その反抗を抑圧して強いて姦淫したとの強姦既遂の事実(所論の如き射精の有無を問わない)を認めるに十分であつて、しかも右証拠中被害者たる上沼歌子の司法警察員に対する告訴調書及び同人の検察官に対する供述調書並びに同女の診断書の各記載によれば、同女は被告人の暴行脅迫により押し倒されたとき、被告人が同女の横においた前記ナイフに気付き、刃物さえなければ逃げられると思い、体を少し横にして右手でそのナイフをかきよせ、開いている刃を折り曲げて力一杯放擲したこと、その際右手掌に全治約五日間の外傷を蒙つたことが認められるから、右傷害は被告人の強姦行為に附随して発生したものであつて、その間に因果関係が存在するものといわざるを得ないから、畢竟被告人は強姦致傷の罪の責任を免れないことは明らかである。
(三宅 東 井波)